※ふわっとした現パロ
今日はもう寝る。ソッコーで寝る。
ご飯も食べてないメイクも落としてない着替えも何にもしてないけど、そういう体力は全部、家に帰るまでに落っことしてきてしまった。
「おやすみィ」
「風呂」
ソファにだらしなく転がる私の顔に影を落とすように仁王立ちしている同居人。
氷月が容赦なく私の顔を掴んだと思ったら、冷たい何かで顔をガシガシと拭かれた。
「いだだだだ痛い痛い剥がれちゃう」
「心配するとこそこですか、あ、取れた」
「まつげ…………」
「あ〜〜〜〜」
「おやすみィ」
再びソファに沈んだ私を氷月はまるでゴミを見るような目で一瞥し、どこかに行ってしまった。
いいよいいよどうせ脳が溶けきった汚物とは同じ部屋にいられませんとかそういうんでしょもう氷月が私の事知らないって言うなら私も氷月のことなんて知らないしちゃんとしたお綺麗なホテルにでも泊まってくれば良「疲れてるわりにはよく動く口ですね全く」
……消えた筈の氷月の声がしたと思った瞬間、体が浮いた。
米俵の如く担がれて放り込まれたのは洗面所。
テレビに出てくるマジシャンもびっくりの速さで身ぐるみを剥がされた私は、問答無用で風呂場に追いやられた。
「おすわり」
「あっハイ」
容赦なく頭から浴びせられるシャワーは、少しだけ熱い。
「それ私のシャンプーじゃないいい」
「あ〜〜つい癖で」
男と女じゃ、力加減が全然違う。彼からしたら普通に洗ってるだけかもしれないけど、こっちからすればそれなり以上のマッサージだ。人にされると気持ちが良い。
「キミ頭皮固いですね」
「あたま……使ったから……」
「…………」
「なんか言えよ」
髪をすすいだら次はボディソープを泡立て始めた。手際が良すぎて怖い。背中を上下する彼の手は淡々とその役割を果たしている。
「前は自分でできますよね」
「ふ、なんかその言い方ちょっと」
「ハ?」
おふざけが過ぎると浴槽に投げ込まれかねない。
仕方なく立てた泡で脹ら脛をやわやわ撫でていると、後ろから足を掴まれて指の間を執拗に擦られた。
そこまでせんで良い。
最後に顔を洗って泡を全部流すと、用意しておいたらしいバスタオルを頭から被せられる。
拭く力が強すぎて体が横に揺れて、ちゃんと立ってくださいと叱られた。
「うーわ、氷月ビッショビショ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
はて、誰だろう。ああ私か。
「さてと、この後どうするか分かってますよね?」
「ベッド行く!寝る!」
「馬鹿ですかキミは本当に」
氷月いわく髪を濡らしたまま枕を使うなんて同じ人として信じられないらしい。流石の私だってそこはタオルとか敷くよ。
「もう眠い限界」
「髪を完全に乾かすまで寝かせません」
「そんな殺生な」
「なんとでも言いなさい」
氷月は、自分も早く着替えたいのでその間に廊下に出られる格好をするようにと矢継ぎ早に言うと、棚からタオルを引っ張り出して洗面所から出て行こうとする。
いやいや、ここで拭いてけば良いのに。
これまたいつの間に用意されていたのか、私のパジャマと下着一式がカゴにちゃんと入っている。完璧か。
「氷月まって」
「ん?」
「ありがとね」
「汚いのと同じ部屋で寝たくないので」
「……歯も磨いて欲しいなあ〜」
「チッ」
ドライヤーが終わってから直ぐ、氷月がちゃっかり新しい歯ブラシをおろしてきたので笑ってしまった。
2019.12.20
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